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SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR "THIRTY30FIFTY50"@さぬき市野外音楽広場テアトロンに行ってきたのよ

ちょっと前…いや、もうかなり前から、吉井絡み以外のライヴのレポを書くことをやめてしまっていて、それは別に何か意味があるとかいうのではなく、なんつーか突然、あ、もう頭をどれだけ振っても言葉が出てきましぇん!みたいな状態に陥って、単純に書けなくなったのだった。吉井やイエローモンキーのレポが書けるのは、結局のところそれまでの興味と蓄積がモノを言っているのだろうと思う。そんなわけでライヴに行ってもツイッターでつぶやいたりするだけで、それ以外は何の記録も残してない状態が続いてる。

 

それはそれで全然いいし、ある意味うつくしいと思ったりもするのだが、先週末のさぬき市野外音楽広場テアトロンで2日間にわたって行われたスピッツのライヴは、何というかそのロケーションも含めて「体験」としてのベクトルが強すぎて、これをこのまま、何も残さないでいるのはいやだなあ、と「何を見ても何かを言いたがる」私の悪い虫がむくむくと顔を出してきてしまった。とはいえ、レポと呼べるようなものではなく、体験談としての色合いが強いのだけれど、それでもまあ、何かを書いて残しておきたくなる時間ではあったのだった。

 

スピッツがここテアトロンでライヴをするのは21年ぶり、ということは当日のマサムネくんのMCで知った。21年前にテアトロンでやったことは知っていたが,それ以降来ていなかったことは知らなかった。21年前にテアトロンでやったことを知っているのは、その時の映像が1曲だけ、スピッツの(当時は)数少ない映像作品に収録されているからである。海に向かう半円の客席と、ステージを取り囲む円柱。確かにフォトジェニックな会場だ。

 

スピッツの30周年のライヴツアーが発表になったとき、私の住む香川県の会場がここテアトロンで、ツアー唯一の野外だと知ったときは、嬉しさよりも、この真夏に野外かあ、という気持ちが先に立ったのは否定しない。テアトロンて、あそこだよなあ、とかつて見たDVDの景色を思い出し、とはいえ、他の会場に遠征してまでいくというのもどうなのか、せっかく地元に来るんだから…と初日をファンクラブの先行で押さえ、2日目をコンビニの先行予約で取った。結果的に、FCで取った1日目の席はスタンド後方のステージ真っ正面で、コンビニの先行で取った席は、上手の1列目という席がきた。スピッツとは関係なく、その前々日に東京の歌舞伎座で宿願といってもよい舞台の初日を観に行くことが決まってからは、1日目のチケットを誰かに譲って、2日目だけ見ればいいのではないか…という考えがよぎったことは否定しない。それをしなかったのは、単に私が初日2日目と連続で見ようと思っていた舞台が、2日目は貸切公演のため通常のチケットを買えないことがわかり、だとしたら東京に残っていても仕方がないと思ったからにすぎない。

 

テアトロンに行くには、志度というJRと琴平電鉄の駅近くからシャトルバスに乗るか、高松駅からのバスに乗るか、自家用車で行っても臨時駐車場からバスに乗ることになり、とにかくアクセスが困難をきわめる。最寄りの志度からのシャトルバスでさえ、片道30分近くはバスに揺られなければならない。おそらく、高松駅からのシャトルバスがもっとも楽なアクセスだろうと思うが、誰しも考えることは同じで、そのチケットはそうそうに売り切れてしまっていた。 私は琴平電鉄の始発の駅から琴電志度まで電車に乗り、そこからシャトルバスで会場に向かったが、野外で長い時間待つことを回避したいと考えるのは誰しも同じなのか、開演の15分ほど前に会場近くの芝生広場に着くと、入場を待つ列が蛇腹のごとく何十にも折り重なっていて、これは…開演に間に合わないのではないか?と思った。しかも、テアトロンに初めてきた私は,その時点でもう会場は目の前なのだろうと思っていたのだが、その芝生広場を抜けると目の前には延々と下る山道があり、その遙か下に今日の会場があるのだった。その延々と下る道を見た瞬間、思わず「マジかよ…」と声に漏れた。想像してみてほしい、夏の野外、まだ高い太陽の光、風がすこしはあるとはいえ30度を優に超す気温。覚悟を決めて降り始めたが、当然のように膝は笑い、汗は噴き出し、しかも予想したとおり、席にたどり着く前にメンバーの登場SEが流れ、ライヴが始まってしまった。

 

(←芝生広場から撮った写真)

 

幸い座席が入り口に近かったことから、1曲目の途中で席に着くことができたが、まだ心臓はバクバクしてるし、汗は噴き出しているしで、2曲目に早くも投入された「8823」で手を振り上げる元気はまったく戻ってきていなかった。最初のMCでマサムネくんは、ここに戻ってこられたことがうれしいと言い、しみじみと会場を見渡していた。君が思い出になる前にを歌う頃には、だいぶ日も陰って、ステージの向こうに美しい夕焼け空が見え始めていた。私もようやく落ち着いてライヴに集中することができた。本当にステージのほぼ真正面で、円柱に囲まれたステージの向こうに瀬戸内海が、そしてその海を渡る船が、その向こうには島影が見えていて、あれはたぶん小豆島だろう。マサムネくんが、以前ここに来たときはロビンソン、チェリーとリリースされたあとで、スピッツのピークのような感じだった、ピークだったから来られたのかと思っていたけれど、30周年でまたここに来られてうれしい、奇跡のようです、と言い、その当時僕らをここに連れてきてくれた曲です、と「チェリー」を歌った。

 

スタンドは相当に傾斜がきついので、自分が立ってステージを見ていると、人の頭はほとんど気にならない。飛行機雲が出ないかな〜と期待していたマサムネくんだったが、実際に飛行機雲が見えて、観客がみんなして指さして教えるのにぜんぜん気がついてくれないのがおかしかった。田村さん(やっぱりよく客を見ている)はすかさず「飛行機雲だって!」と拾い上げてくれ、それを見るためにひょこひょことマサムネくんがステージの前方まで出てきたのがかわいかった。スタンド最上段の芝生席のひとたちが、夕焼けを背に影絵のようになっているのにメンバーが喜び、マサムネくんはYMCAの振りまでやらせていたが、最終的に「あれっCってどっち向きだっけ…まあいいや!」とぶん投げていて笑った。テッちゃんは、MCがうまくないバンドだけど、野外でやると沈黙が流れても虫の声が助けてくれるからいいよね…と冗談とも本気ともつかないようなことを真顔で言い、実際そのテッちゃんの期待に応えるように盛大に虫が鳴いていた。

 

あたりがどんどん暗くなっていくが、まだ陽の明るさの名残もあるなかで、ロビンソン、猫になりたい、楓、とスピッツ伝家の宝刀ともいうべき美しいメロディのメロウな楽曲が続くターンはこのライヴの一種の白眉といってよく、マサムネくんのハイトーンが夕闇に吸い込まれていくさまに陶然とした。目に入るものすべてが美しいという感じだった。そして太陽の最後の名残が消えきるタイミングで「夜を駆ける」。ステージにさっと青い光がふりそそぎ、対岸の島には明かりが灯っていて、ただもうその美しさに泣けた。ああ、今日来てよかった、この光景を見られてよかった…と心から思った。崎ちゃんの疾走していくようなドラムに聞きほれたし、何度聞いても完璧な歌詞だ。夜を駆ける、今は撃たないで、遠くの灯りのほうへ駆けていく…。

 

「運命の人」に「神様 神様 神様 君となら」という歌詞があるが、この部分でムービングライトがマサムネくんにさっと集まったところは、本当に…これこそ「尊い」ってやつじゃないのか、文字通り手を合わせて拝みたいような気持になった。いやでも、芸能っていうものはもともとはそうしたものだったんだろうと思うし、なんというかステージが一種祭壇のようにさえ思える瞬間だった。本編ラストの「1987→」は、バンドというものに入れあげたことのある人ならだれでも、自分の好きなバンドにこんなふうに言ってもらえたら嬉しいだろうな、と思わないではいられないような歌だと思う。そういう曲を、50歳になって、30周年のバンドが歌ってくれることが、なによりすごい。

 

アンコール。心のどこかで期待していた気もするし、でもそういう期待はあまり持たずにいた方がきっといい…とも思っていた。マサムネくんはギターを持たず、その瞬間に「あの曲」がくるのがわかった。「恋のうた」。21年前のテアトロンで演奏された映像が、スピッツのライヴDVDに収録されている。スピッツのライヴ映像は、この規模のバンドとしては本当に考えられないぐらい長い間、ほとんどメディア化されておらず、だから数少ない過去のライヴ映像を、ファンの子たちは(もちろん私も含めて)何度もためつすがめつしてきたわけだけれど、テアトロンでこの「恋のうた」をセットリストに入れてくれたのは、そういうファンが過ごしてきた時間を少なからず汲み取ってくれているからだろうと思う。そういうことができるバンドだから、こうして30周年でまたここに帰ってこられるんだろう。感謝しかない。ステージを照らしていたライトが、後ろの森に向けられ、浮かび上がる森の中にいるような光景も、ちょっと忘れがたい。

 

2日目は上手の1列目で、さすがにここではステージ越しの海を見ることはできなかった。テッちゃんも田村さんも、マサムネくんもすごく近くで見られて、角度的に崎ちゃんがすごく良く見えて、何がってドラムセットの間から崎ちゃんの右足が、つまりバスドラを踏む足が見えたのは眼福以外のなにものでもなかった。惑星のかけらの、いつでも心は卵だ割れないように気をつけて…という歌詞にわけもなくぐっときて泣きそうになった。あと、そう!この日はセットリストに「波のり」と「冷たい頬」と「さらさら」が入ったのだった。冷たい頬をやったあと、夏らしくない曲で、なんか夏っぽい曲がなくて〜と言いながら、チェリーを「スピッツ音頭」と音頭風にやって楽しんでいたが、いや夏とか海の名曲くさるほどあるでしょ!渚とか!青い車とか!と思った私だ。っていうか春夏秋冬の名曲揃ってるでしょ!

 

「さらさら」は、ひとつ前のアルバムのシングルカット曲で、そういう曲ってツアーを外れるとなかなか聞けなかったりするので、真から嬉しかった。この曲が好きすぎてこの曲だけ延々リピートして聴いていたこともあるぐらいだ。そういえば、「楓」のイントロの前にキーボードの音が鳴ってしまい、あとからクージーが「虫をよけようとして手が当たった」ことを懺悔していた(本当に『あんないい雰囲気なのに、申し訳ない』と恐縮しきりだった)が、その音が鳴った瞬間マサムネくんは客席に半分背を向けながらめちゃくちゃ笑顔になっていたのを私は見逃さなかった。ちょっとした黒マサムネである。

 

俺のすべての最後にドラムソロがあるのも崎ちゃんファンには嬉しかったし、「運命の人」のイントロで打ち込みが流れてるとき、両手でスティックをもってぐーっと身体を折り曲げていたのが、なんだか祈りの姿勢のようでぐっときた。ぐっときた、といえばテッちゃんが、俺のすべての最後だったかな、両手でギターを高々と掲げたのがものすごく印象的だった。そういうことをあんまりやらないからこそ、というのもあると思う。そういえばテッちゃんはMCで、今日初めてスピッツ見に来た人、何にびっくりするってベースだろ!?俺を見てめっちゃ激しく動きそう…って思ってたかもしれないけど!と誰もが通るスピッツあるあるを話していた。いつも俺のエフェクタ―勝手に踏んでどっかいっちゃうし…というテッちゃんに、そうだよなテッちゃんいつも平然としてるけどリダ結構な当たり屋だよな…と思ったし、実際そのあとの田村さんの暴れん坊将軍ぶりは輪をかけてすさまじかった。さすがです。

 

1日目も、2日目も、アンコールのあとには盛大に花火があがって、まさに特等席での花火鑑賞になったし、今年の花火はもう、これでいいや!と思うぐらいの満足感があった。1日目は後方席だったので退場も早く、バスにもさほど待たずに乗車出来て、わりとスムーズに帰宅できたが、2日目は出口が遠いため、あえてゆっくり時間をつぶしてから退場した。本当に最後の最後に会場を出たので、シャトルバスも最後の便になったが、待ったのは40分弱だったのではないかと思う。バスを降りても、そこから鉄道の駅まで歩いて、30分に1本しか来ない電車を待つ。いずれにしても、途中でマサムネくんがねぎらってくれたように、行くのも、帰るのも、なかなか一筋縄ではいかない会場であることは確かだ。しかし、だからこそのあの景色、あの贅沢なのだと言われれば、もはや頷くしかない。2日目ももちろんメンバーを近くで見られて楽しかったが、やはり1日目に観た圧倒的な光景が私の中にまだ残っているし、これからも多分テアトロンのことを思い出すとき、スタンド後方から見た夢のような光景を思い出すだろうと思う。そしてあの景色に負けない、スピッツのバンドとしてのしなやかさ、あの頃がピークだったと笑いながら、今なお新しいピークに歩いているような強さを改めて感じたし、それだけの楽曲を生み出してきた凄さをまざまざと見せられた時間だった。すばらしいライヴ、いや素晴らしい「体験」でした。スピッツ30周年、本当におめでとう!最高のライヴをありがとう!
 

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